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淡水魚ヤリタナゴで深刻な遺伝的撹乱
高等部教諭らが日本魚類学会英文誌「Ichthyological Research」に発表

[ 編集者:広報室  2019年10月28日 更新 ]
 関西学院高等部の富永浩史・教諭が所属する研究グループ(長太伸章・国立科学博物館特定非常勤研究員、北村淳一・三重県総合博物館学芸員、曽田貞滋・京都大学大学院理学研究科教授、渡辺勝敏・京都大学大学院理学研究科准教授ら)が、国内に広く分布するコイ科の淡水魚「ヤリタナゴ」の遺伝子を調べ、本種には7つの遺伝的に異なる地域固有グループが存在し、特に関東地方では他地域からの人為移植によって深刻な遺伝的撹乱(かくらん)が進んでいることを明らかにしました。本研究の成果は、10月24日に日本魚類学会英文誌「Ichthyological Research」の電子版に掲載されました。

<研究の概要>

ヤリタナゴ

ヤリタナゴ

 ヤリタナゴ(写真)はコイ科タナゴ亜科に属する淡水魚で、青森県から鹿児島県に至る本州、四国、九州の川や農業用水路に広く分布します。タナゴ類は生きた淡水二枚貝の鰓(えら)内に卵を産み込むというユニークな繁殖生態をもち、産卵期には鮮やかな婚姻色(こんいんしょく)が現れることから、観賞魚や釣りの対象として人気があります。

 本研究により、細胞内にあるミトコンドリアがもつDNA塩基配列の違いから、日本国内のヤリタナゴの中に7つの遺伝的に異なる地域固有グループが存在することが明らかとなりました。他の多くの日本産淡水魚では、本州中部に位置する中部山岳地帯を境に東西で近縁な別種が分布する場合や、大きな遺伝的な違いがあることがわかっており、中部山岳地帯が淡水魚の移動を阻んだ結果と考えられています。しかし、ヤリタナゴの場合は日本海側において、中部山岳地帯の東西での遺伝的な違いはあるものの他種より小さく、中部山岳地帯ができたあとにも自然に移動が起こった珍しい例と考えられます。

 また、古くからヤリタナゴの生息記録があり自然分布域と考えられてきた関東地方では、荒川、霞ヶ浦を含む利根川、久慈川の3水系5地点から採集した45個体のすべてが、近畿地方もしくは東海地方の固有グループに属する遺伝子をもち、関東地方固有と考えられる遺伝子は見つかりませんでした。他の淡水魚ではふつう、近畿地方や東海地方と中部山岳地帯によって隔たれる関東地方には、遺伝的に異なる固有グループが分布します。したがって、本研究で調べた関東地方のヤリタナゴは近畿地方や東海地方からの人為移植が起源であり、本来いたと推定される関東地方固有のグループと置き換わってしまった可能性があります。また、東北地方の日本海側や東海地方など地域固有グループが分布する地域でも、他地域からの人為移植の影響を受けていることも明らかとなりました。

 ヤリタナゴは環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定され、全国的に絶滅が危惧されています。特に関東地方では危機的な状況で、東京都と神奈川県ではすでに絶滅し、その他の県ではレッドリストに掲載されています。タナゴ類では、放流によって本来いない地域に定着したり、地域固有の遺伝子が失われたりしていることが他の種でも報告されています。現在ヤリタナゴが生息している場所でも、人知れず遺伝子が他地域のものと入れ替わることで地域固有のヤリタナゴが絶滅してしまっている可能性があり、特に関東地方は極めて深刻な状況であることが明らかになりました。本研究の成果は、各地域のヤリタナゴの遺伝的固有性を明らかにし、今後、本種の保全を進めていくうえで重要な知見となります。