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鼎談 未来を育む伝統的空間~関西学院 西宮上ケ原キャンパスが「2017年日本建築学会賞」を受賞

 関西学院の西宮上ケ原キャンパスが、1929年の創建以来の設計思想を継承しながら、現在の大学に求められる施設の機能向上を的確に行ってきたことが評価され、関西学院と設計業務を担ってきた株式会社日本設計が、2017年日本建築学会賞(業績部門)を受賞した。この受賞を機に、関西学院のキャンパスを見つめ直し、「関西学院のキャンパスが、いかに若者の育成に適した環境であるのか」という観点で、それぞれのキャンパスで教育・研究する3名に鼎談してもらった。

(左)長田 典子、(中央)村田 治、(右)井頭 均

(左)長田 典子、(中央)村田 治、(右)井頭 均

学長 村田治(景気循環論、教育の経済学)
理工学部教授 長田典子(感性情報学、メディア工学、脳科学、共感覚)
教育学部教授 井頭 均(生物学教育、理科教育、保育内容 環境)

若者の育成に適した環境

鼎談風景

鼎談風景

- 村田 -
 このたび関西学院は、2017年の日本建築学会賞(業績部門)を受賞しました。1929年に上ケ原に移転してから現在まで、当初の設計思想を脈々と受け継ぎながら、時代に合わせて発展させてきました。神戸三田キャンパスもトータルデザインで作られています。先日、神戸三田キャンパスで講演会があり、出席された他大学の先生方に「本当に美しいキャンパスで、素晴らしい環境ですね」と言っていただきました。西宮聖和キャンパスも丁寧に整備され、建物はもちろん、自然の豊かさを感じます。

 本日は、整備された空間が若者の心身の成長に与える影響や、教育にどう良い効果を生んでいるかなどを話しながら、関西学院のキャンパスについて改めて考えていきたいと思います。まずは、それぞれのご専門の視点からお聞かせください。

- 井頭 -
 私の専門は生物学です。地球上に人類が出現したのは今からおよそ500万年前であると考えられています。その大半は自然の中で生活してきました。現代のようにアスファルトとコンクリートに囲まれた生活になったのは、ほんの数百年前からです。このため、現代人の中にも自然を求める遺伝子が組み込まれているのではないでしょうか。自然に触れることは、リラックスや心の安定といった精神面での効果があり、血圧の低下など身体にも様々な良い効果があるといわれています。日々の見えないストレスや疲労から解放してくれるのです。最近、都市部の人々を中心に、大自然の中で様々な体験や生活をするプログラムが人気を集めていることからもわかるように、私たちは心のどこかで自然を求めており、コンクリートの街並みだけでは十分な安らぎを得ることができないのです。

 関西学院で学ぶ人も多くの人がコンクリートに囲まれた生活をしています。関西学院は自然が計画的に置かれており、心身ともに若者の学ぶ環境としてふさわしいと思います。

- 長田 -
 私は、色の効果と質感の効果をお話しします。まずは色についてですが、「赤=暖かい」など、私たちは色に対して様々なイメージを抱きます。井頭先生がおっしゃった「人には生命維持のため、自然を求める」という遺伝子があることと同様、私たちが色に抱くイメージも、人類が進化の過程で共通に得た機能の一つです。人間が色に抱くイメージを研究によってまとめた「配色イメージスケール」で、関西学院のキャンパスを見てみましょう。

 屋根の赤。壁のクリーム色。自然の緑。この3色の組み合わせは、「陽気な」「楽しい」「はつらつとした」「開放的な」といった印象を抱かせることが統計的にわかっています。関西学院のキャンパスの色は、児童から大学院生まで、若い人のためにあるような配色なのです。

 ある研究で、「色」と「作業能率」の関係を調べたものがあります。この色に囲まれると誰でも作業能率が上がる、という特定の色はありませんでしたが、どんな色でも自身の好きな色に囲まれると作業能率が上がることが判明しました。例えば、緑が好きな人が緑に囲まれて課題に取り組むと、他の色に囲まれるよりも作業能率があがるということです。

 関西学院のキャンパスの「楽しい」色が好きだと感じる学生は多いのではないでしょうか。日々、好きと思える色に囲まれて勉強、研究できれば、作業能率が上がります。学びの場として、理想的な配色ですね。

 質感の視点で考えると、私はスタッコ壁が最も優れていると考えています。壁のテクスチャー(質感、模様)をよく見ると、模様の中に同型の小さな模様が続いています。このような模様は「フラクタル」とか「f分の1ゆらぎ」などの言葉でも表現されますが、海岸線や木々の枝ぶりにも見られる自然界のある種の秩序を含んでいます。私たちはスタッコ壁から無意識に自然らしさを感じていて、それが私たちに快感情を喚起しています。一方、私たちは、模様の複雑性を見て、高級感や重厚感も得ています。私は共感覚の研究をしていますが、共感覚的にいうと、あの壁からはバイオリンの音色を感じます。関西学院のキャンパスのシンメトリーの秩序と、スタッコ壁の自然性と複雑性が相まって、バイオリン協奏曲となって聞こえてきますね。

- 村田 -
 なるほど。自然らしさや高級感のある空間は、心のゆとりや遊び心など柔軟な思考にもつながってきますね。

- 井頭 -
 自然と触れる効果は他にもあります。園児や児童などの成長に目を向けると、子どもが日常生活で使用するものは、機能だけを重視すればすべてプラスチック製で良いはずです。安くて軽いし、なかなか壊れません。しかし、そうではなく、木のおもちゃや箸、土が素材である陶器など自然の素材のものに触れることにより、五感を使って手触りや重さ、色合いなどを感じることができます。人工物だけでなく、自然そのものも同様です。形や大きさ、匂い、手触りなどの違いを体験することを通して多様な感覚を身につけるのです。

神戸三田、西宮聖和には独自の魅力も

西宮聖和キャンパスに植えられている植物

西宮聖和キャンパスに植えられている植物

- 村田 -
 話は変わりますが、私立大学には不本意入学者の割合の高さが現実としてあります。各大学では、学生が母校を誇りに思えるように取り組んでいます。関西学院大学においては、このキャンパスが母校の誇りの一つになっていると思います。

 1929年に関西学院が上ケ原に移転した際に、西宮上ケ原キャンパスは、甲山から時計台、中央芝生、正門につながる借景で作られました。その結果、もともと甲山には甲山大師という土着信仰がありましたので、甲山を取り入れることで、畏怖なるものという多神教的な自然信仰の形で、日本人にも違和感なく浸透していきました。また、詩編121編にある「目を上げて、わたしは山々を仰ぐ」にもあるように、聖書の内容を反映してキャンパスがデザインされています。また正門から甲山までの主軸をもとに、対称性が保たれています。これは極めて数学的な美しさを保っています。お二人に話していただいた要素も含めて、この構成された美しさは、学生がキャンパスを誇りに感じることのベースにあるのかなと考えています。

 神戸三田キャンパスに勤務する長田先生は、日々の中でどのような点が学生に良い影響を与えていると感じますか。

- 長田 -
 美しさや落ち着いた空間というのはもちろんですが、アカデミックコモンズのオープンは、大きな変化ですね。二つの学部の核ができ、インタラクションが活発になっています。確実に学生に変化がありますね。

- 村田 -
 アカデミックコモンズは、神戸三田キャンパスの中心に位置していますからね。井頭先生、西宮聖和キャンパスはいかがですか。

- 井頭 -
 西宮聖和キャンパスの長い歴史の中で、これまで多くの先輩の先生方が「将来教師を志す者として知っておいたほうがよい」という植物をたくさん集めて植えられて発展してきたという経緯があります。私は3年前にキャンパスの植物について調査しましたが、西宮聖和キャンパスには約150種類の樹木が植えられています。今日はキャンパス内にある何種類かの植物を持ってきました。

 これは「ブラシノキ」。花が掃除をするブラシに似ていることでそう呼ばれています。これは葉の形が金魚に見える「キンギョツバキ」の葉です。他にもこすると、メントールの臭いがするクスノキや、芳香がありカレーやシチューなどに入れるゲッケイジュの葉(ベイリーフ)など、見た目も性質も様々な植物があり、贅沢なくらい素材があります。しかしそのままでは学生は日々、「花が咲いているな」「緑がきれいだな」と感じる程度です。それ以上の関心を持つことは、ほとんどありません。ところが、教師を目指す学生が多いこともあって、ほんの少し説明するだけで、彼らの表情が一変し、とても興味を持って自然に目を向けるようになるのです。将来、子どもを指導するときにも必要ですが、学生自身が自然の面白さや生活との関わりを知っておくことが大切であると思います。

 環境がそろっている関西学院では、私たち教員が学生に少しのきっかけを与えるだけで、学生はこの環境を生かして、たくさんのことを学ぶことができるのです。

- 村田 -
 大学だけでなく、関西学院幼稚園でも自然と触れる環境がしっかりと整備されており、先生方がそれを生かした教育をされています。園児の成長にとって素晴らしい環境ですね。

愛校心を育む変わらない風景

村田 治

村田 治

- 村田 -
 関西学院の同窓生は、愛校心が強く、「関学のことが大好き」という方が多い。先日、そのことについて、他大学出身のある職員の方と話しまして、その方は「キャンパスの風景が変わらないこと」が愛校心を強くする大きな要因ではないかとおっしゃっていました。私は関学出身ですので、キャンパスの風景が変わらないのは当たり前だと思っていました。しかし、日本の多くの大学では、卒業後、5年や10年たつと、風景が様変わりしていることが多いらしい。その職員の方も母校の風景が様変わりしていたとのことです。ところが、関西学院大学には変わらない風景があります。同窓生がいつ帰ってきても、学生時代を思い出せるのです。今回、日本建築学会賞(業績部門)をいただいて改めて確認すると、1929年と2014年の風景は一緒なんですね。もちろん、建物や木々の数は変化していますが、正門からの光景は同じです。これが同窓生へのインパクトとなり、ノスタルジックにつながっていると考えています。知れば知るほど、ここまで考え抜かれたキャンパスは、他にはないと確信しています。

- 井頭 -
 私は、初めて西宮上ケ原キャンパスに来た時、外国の大学に来たような気分になりました。今日話していて、最初に抱いた感動を思い出しました。どの方も最初に抱いた感動は、忘れられないのではないでしょうか。

- 長田 -
 心の拠りどころというのは、何歳になっても目には見えない様々な効果があるのでしょうね。学問・研究の場としては、重要なことだと思います。

- 村田 -
 毎日生活していると当たり前に感じるキャンパスですが、改めて恵まれていることを感じましたし、これまでキャンパスの発展に関わってきた関係者の方に感謝したいですね。

オンキャンパスの重要性

(左)井頭 均、(右)長田 典子

(左)井頭 均、(右)長田 典子

- 村田 -
 AIの時代がすでに始まっています。今後さらに加速するでしょう。いくつかの大学では、長期のビジョンとして、AIやIoT等を念頭に置き、オフキャンパスでの授業の促進が明記されています。私は、超長期ビジョン「KWANSEI GRAND CHALLENGE 2039」を作成している中で、考えていることがあります。AIの発達により、現在の仕事のある部分がなくなっていくと予想されています。おそらく、職業そのものがなくなるのではなく、その職業の一部分がAIに変わるということになるのでしょう。その中で、人間にしかできない仕事として、美的センスや感性を必要とするもの、コミュニケーション能力を必要とするものが残ると考えられています。これらの能力を高めるには、オンキャンパスで、教員と学生や学生同士といった“face to face”の授業をすることが大切です。今後も学生はキャンパスで学ぶことがますます重要になります。本日お聞きした整備された自然、空間や色合いなど関西学院のキャンパスは、ここで学ぶ人々にとって、良い影響を与えているんだなと改めて感じました。

- 長田 -
 今後どれだけデジタルが発達しても、実際の自分の体を使ったコミュニケーションや感性を高めることは大事です。身体性こそが人間らしさであるわけで、心身の両方の発達のバランスが、人間をさらに高度に発達させるのです。その発達が実現できる関西学院のキャンパスを、私たちは大切にしていかなければならないと思います。

- 井頭 -
 「孤独は喫煙よりも害」。こう例えられるほど、孤独は人に良い影響を与えないといわれています。これは子どもでも高齢者でも同じです。キャンパスという場で、多くの人が関わる。さらに四季や自然を感じることができる。一見大したことではないですが、日々の一つひとつの触れ合いが人間形成にはとても大事なことであると思います。

- 村田 -
 今、世界が抱えている高等教育の課題は、AIの発達した時代にどのような教育で、どのような能力をつけるかです。ようやく見えてきたのが、知識や技能だけではなく、経験やコンピテンシーなど肌で感じないと身につかない資質です。ビル群に囲まれたキャンパスを持つ大学が増える中、様々な好影響を与える要素が整う関西学院大学のキャンパスは、大きな財産です。私たち教職員が今後も意識し、大切にしていかないといけませんね。