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「近赤外線で見た宇宙の背景は予想外に明るかった」〜未知の背景放射成分を発見〜

[ 編集者:広報室  2017年4月13日 更新 ]
理工学部物理学科 松浦周二教授

理工学部物理学科 松浦周二教授

 理工学部物理学科の松浦周二教授らの研究グループは、近赤外線の宇宙背景放射(注1)を観測するロケット実験CIBER(注2)により、未知の背景放射成分が存在することを発見しました。近赤外線の宇宙背景放射には宇宙初期の星やブラックホールからの放射(注3)が含まれていると期待され、その研究の進展が期待されていました。しかし、近赤外線の波長では地球近傍にある惑星間ダストの放射(黄道光(注4))が強く、遠方宇宙からの背景放射の観測精度が上がらない状況が続いていました。松浦教授らは、スペクトル観測により黄道光の成分を区別することで、宇宙背景放射の明るさを正確に測定。その結果、既知の星や銀河による寄与では説明できない放射成分の存在を結論づけました。この未知の放射が、宇宙初期に起源を持つかどうかを突き止めるのは、将来の研究に委ねられています。

 この研究成果は4月10日(米国東部時間)に学術誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されました。

ポイント

・宇宙初期の星やブラックホールの探査を目指し、それに適した0.8〜1.7マイクロメートルの近赤外線波長での宇宙背景放射のスペクトル観測を初めて行いました。

・これまでは前景放射である黄道光の影響で宇宙背景放射の明るさがよくわかっていませんでしたが、今回のスペクトル観測により、黄道光の成分を区別することで、宇宙背景放射の明るさを推算することができました。

・観測された宇宙背景放射の明るさは既知の星や銀河の寄与による予測値の倍以上もあり、宇宙には我々がまだ認識できていない赤外線を発する天体が大量に存在していると考えられます。

・今回見つかった謎の宇宙背景放射成分は、私たちが探査を目指した宇宙初期の星やブラックホールによるものかもしれません。それが事実なら宇宙進化の解明に関わる重要な発見ですが、その結論を出すにはさらに精度の良い観測が必要となります。

・この観測はカリフォルニア工科大学ほかの国際研究グループと共同開発した望遠鏡をNASAのロケットに搭載して行ないました。プロジェクト名はCIBER(Cosmic Infrared Background Experiment)としました。

1.研究の背景

(図1)宇宙からの近赤外線放射の成分内訳

(図1)宇宙からの近赤外線放射の成分内訳

 宇宙創成から現在に至る宇宙進化の歴史をひも解くためには、宇宙初期の天体を見つけ出し、それらがいつどのようにして形成され、現存する星や銀河へと進化していったかを研究することが重要です。特に、最初に生まれた星やブラックホールの研究は宇宙物理学や天文学の最重要課題のひとつとなっています。これらの原始の天体は紫外線で明るく輝いていたと考えられており、その光は、ビッグバンで始まった宇宙の膨張に伴う赤方偏移(注5)により、現在は近赤外線として観測されると期待されています(図1)。

 以上のような研究は遠方の天体を個別に近赤外線で観測し丹念に調べていく手法が一般的であり、多くの研究者がこれに取組んでいますが、宇宙の最初期における天体は暗すぎて巨大な望遠鏡を用いても個別には観測が困難です。そこで私たちは、宇宙初期の天体や遠方の銀河からの光が折り重なった宇宙背景放射として観測するという独自手法で研究を進めてきました。

 これまでに日本や米国の人工衛星(COBE,IRTS,あかり)を用いて、今回のCIBER実験よりも波長の長い近赤外線で観測を行なってきた結果、銀河などの既知の天体による寄与をすべて考慮しても観測された宇宙背景放射の明るさを説明するには足りないという問題が出てきました。この宇宙背景放射の余剰成分は宇宙で最初に生まれた星々の残光であるとの理論的解釈も発表され、研究者の間では大きな話題となりました。しかし、観測を行った私たちは、これらのデータだけからは、余剰な放射を生み出しているのは手前にある黄道光の混入である可能性を否定できず、未知天体の存在を強く主張するには躊躇がありました。

2.研究内容と成果

 上で述べたような観測のデータとして得られる天空からの近赤外線の明るさの8割方は黄道光によるものです(図1)。残る2割の中に遠方宇宙からの背景放射が含まれているはずですが、黄道光の明るさの推定を少し間違えると、残りは大きな影響を受けます。黄道光による寄与を精度良く見積もるために今回私たちが行なったのは、これまで誰も行わなかった可視光に近い波長範囲の近赤外線のスペクトル観測です。黄道光のスペクトルは太陽光のスペクトルに似ており、波長が可視光に近づくと明るくなりますが、むしろ黄道光の区別はつけやすくなることを利用するのです。

 私たちは、上記のような新たな宇宙背景放射の観測のため、米国や韓国の研究者と共同開発した観測装置を用いたロケット実験CIBERを行いました。2009年から2013年の間に4回のロケット打ち上げを行い、それらの観測データの解析結果をまとめたのが今回発表する結果です。これに用いた観測装置は口径5センチメートルの小さな望遠鏡からなる分光光度計です。NASAのロケットにより打ち上げ(図2)、高度250km以上の大気圏外を飛行する約5分間に複数の天空方向について波長0.8〜1.7マイクロメートルの近赤外線のスペクトルを測定しました。

(図2)CIBERロケット実験の観測装置外観と打上げの様子

(図2)CIBERロケット実験の観測装置外観と打上げの様子

(図3)CIBERにより観測された近赤外線の宇宙背景放射のスペクトル

(図3)CIBERにより観測された近赤外線の宇宙背景放射のスペクトル

 観測データの解析の結果、過去に行なった観測と同様に、1.3マイクロメートルより長い波長での宇宙背景放射は、やはり既知の星や銀河からの光では説明できない余剰な明るさを示していました(図3)。さらに重要なこととして、これまでになく広い波長範囲で黄道光と宇宙背景放射のスペクトル形状の違いを分析した結果、長い波長でみられた近赤外線の余剰な放射成分は、疑念が持たれていた黄道光の明るさの見積もり間違いによるものではなく、より遠方の宇宙に起源を持つことを決定づけました。この未知の宇宙背景放射成分は、まだ誰も見たことのない宇宙初期の星やブラックホールによる太古の光かも知れませんし、未知の粒子崩壊や天体現象が近傍の宇宙で起こり赤外線を発しているのに、私たちはその存在に気づいていないということもありえます。

3.今後の展開

 今後に残された課題は、私たちが発見した未知の宇宙背景放射成分の起源を解明することです。今回の観測データからはその起源について明言することはできませんが、未知の宇宙背景放射成分の存在を決定づけたことで、世界中の研究者がこの問題を解決しうる天体理論の構築や天体探査を始めるでしょう。私たちは、CIBERよりも10倍以上も感度に優れた新しいロケット実験CIBER-2を計画し、その観測装置の開発を進めています。さらに、将来は黄道光の影響が完全になくなる惑星間空間に探査機を送り込み、近赤外線の宇宙背景放射を観測する計画を進めます。例えば、JAXA宇宙科学研究所で進められているソーラー電力セイル(注6)による観測計画は、その第一歩です。近赤外線の宇宙背景放射観測は、宇宙初期探査の新しい扉を開くかもしれません。

【論文タイトル】

原題: New Spectral Evidence of an Unaccounted Component of the Near-infrared Extragalactic Background Light from the CIBER

【タイトル和訳】

CIBER実験から得た銀河系外近赤外線背景放射の原因不明成分についての新たな分光学的証拠

【著者名】

Shuji Matsuura, Toshiaki Arai, James J. Bock, Asantha Cooray, Phillip M. Korngut, Min Gyu Kim, Hyung Mok Lee, Dae Hee Lee, Louis R. Levenson, Toshio Matsumoto, Yosuke Onishi, Mai Shirahata, Kohji Tsumura, Takehiko Wada, and Michael Zemcov

【用語解説】

(注1)近赤外線の宇宙背景放射(Near-Infrared Extragalactic Background Light)
天空の観測データのうち、星や銀河などが写っていない天域の明るさを「宇宙背景放射」という。近赤外線の波長域では、太陽系内からの明るさ、私たちの銀河系内の明るさ、銀河系外からの明るさがその中に含まれている。

(注2)CIBER実験(Cosmic Infrared Background ExpeRiment)
近赤外線での宇宙背景放射を観測するための NASAのロケット実験プロジェクト。専用に開発した望遠鏡を NASAの観測ロケットに搭載し、打ち上げて観測を行う。観測終了後はパラシュートにて望遠鏡を回収することで、複数回の観測が可能となる。2009年から 2013年の間に計4回の打ち上げ観測を実施した。

(注3)最初の星やブラックホール(First stars and blackholes)
宇宙初期の原始ガスが重力収縮し、最初の星が誕生したと考えられるが、当時の高温環境やガス組成が原因で現在は存在しないような巨大質量の星々であったと考えられている。巨大な星は高温になるため、ほぼ紫外線だけで光っていたとされる。また、巨大な星は極めて短い寿命のあと、重力崩壊によりブラックホールを形成し、その後周辺の物質を引き寄せてX線や紫外線で輝く現象が予想されている。

(注4)黄道光(Zodiacal light)
地球近傍の惑星間空間に漂っている固体微粒子(惑星間ダスト)が太陽光を散乱したもの。可視光や近赤外線では天空で最も明るい放射であり、遠方からの宇宙背景放射に対して手前にある「前景放射」となる。その放射スペクトルは太陽光の散乱体である惑星間ダストの物質組成に依存するが、おおむね太陽光のスペクトルに一致する。

(注5)宇宙の膨張による赤方偏移(Cosmological redshift)
熱いビッグバンによる創成以来、極小サイズの宇宙は現在の巨大サイズにまで膨張してきた。初期の宇宙において発せられた光は、宇宙の膨張(時空の伸び)に伴って波長が大きく引き伸ばされ、現在は長波長の光として観測される。光の波長の伸びは、可視光の場合には赤くなることから「赤方偏移」と呼ばれ、宇宙の初期に発せられた光ほど観測される赤方偏移が大きい。

(注6)ソーラー電力セイル探査機(Solar power sail spacecraft)
JAXA宇宙科学研究所が計画している将来の惑星探査機。巨大な膜を張り、太陽光圧を利用して推進する「宇宙ヨット」の原理とイオンエンジンによる推進方法をとる。「はやぶさ」や「はやぶさ2」に続く小惑星探査計画の一貫として、木星トロヤ群の探査を主な目的とする。木星軌道付近に至る深宇宙では黄道光の原因となる惑星間ダストが少ないため、近赤外線の宇宙背景放射の観測には理想的な環境が期待できる。私たちは、この探査機に赤外線観測装置EXZIT(EXo-Zodiacal Infrared Telescope)を搭載し、宇宙背景放射を観測する計画をすすめている。

本研究内容については以下も参考にしてください。

問い合わせ先

■TEL 0798-54-6017 広報室 
■TEL 079-565-7606 理工学部物理学科 松浦周二教授